
「配車差別」という言葉をご存じでしょうか。
運送会社が特定の運転手に対して、給料を減らすため長距離の配送や休日の乗務を意図的に与えない行為です。
福岡県北九州市の運送会社で「配車差別」を受けているという男性運転手たち、きっかけは会社に待遇の改善を求めたことでした。
約20年前に入社した運送会社
北九州市八幡西区に住むトラック運転手の松尾宏忠さん(50)。
今、会社の「配車差別」とたたかっています。
トラック運転手 松尾宏忠さん
「この会社と戦う以上は覚悟を決めてやっていかないといけない。風通しの良い会社に少しでも変わっていってもらわないといけない」松尾さんはおよそ20年前、小倉北区の運送会社「東輪ケミカル」に入社し、シンナーやトルエンといった化学薬品を関東などへ運んできました。
給料は走行距離に応じた変動給ですが、手取り額は平均で月に33万円ほど。
班長という立場となり後輩の育成に取り組む中、全国各地にあるグループ会社と比べて、給与水準が低いことに気が付いたといいます。
トラック運転手 松尾宏忠さん
「若い方がなかなか入ってこないし、入っても辞めていく、20年働いた先輩も見切りをつけて辞めていく。これは健全な会社ではないと思うんです。5年10年15年退職まで働いてもらえるような職場を作っていけたらいい」
労働組合結成後に始まった「配車差別」
2021年12月、松尾さんと同僚の運転手あわせて3人は、会社と交渉をするため「全国一般労働組合」に加入し「東輪ケミカル分科会」を結成しました。
その翌月から、松尾さんたち3人に対して「配車差別」が始まったといいます。
今も続くという「配車差別」とはどういうものなのか、松尾さんの、ある一日の勤務に同行しました。
月の手取り給与 最大で13万円減った
RKB 浅上旺太郎記者
「午前7時、松尾さんが運転する車が出てきました」
午前7時に小倉北区を出発した松尾さん。福岡市中央区でアルコール系の薬液を積み込み、午前11時に北九州市門司区の工場に届けました。記者「次はどちらに?」
松尾宏忠さん「次は終わりですね」
記者「午後1時ですよ」
松尾宏忠さん「終わりです、短いんで。こういう働き方というのは納得がいってないというか、頑張りたいのに頑張れないというもどかしさはありますね」
松尾さんの月の走行距離は、以前の4分の1ほどになり、月の手取りは20万円から22万円と、最大で13万円減ったそうです。
一軒家から家賃安いマンションに引っ越した
松尾さんとともに組合に加入した梶原章裕さん(54)は、生活費を捻出するため当時住んでいた一軒家から家賃の安いマンションに引っ越したといいます。
トラック運転手 梶原章裕さん
「ただ生活が苦しいというだけで逃げてはいけないなと。会社の待遇改善に努めていこうという強い意思で自分たちは立ち上がったのでそれを突き通したい」
「未払の残業代、支払って」会社を提訴
松尾さんたちは、労働組合の仲間と話す中で、「残業代」についても問題があると考えるようになりました。
全国一般労働組合福岡地方本部 山岡直明 執行委員長
「残業の計算方式が全くない、ここにはね、残業手当が出てないんだもん、未払いが莫大にあると思いましたね」2022年2月、松尾さんたち3人は東輪ケミカルに対し、2019年11月から2021年10月までの未払い賃金など合わせて9000万円あまりを支払うよう求める訴えを福岡地裁小倉支部に起こしました。
裁判では「配車差別」が大きな争点となりました。
松尾さんたち原告
「『配車差別』が労働組合法が禁止する不利益取扱いにあたる」
会社側
「過大な未払い賃金の支払を求められたことからこのような配車措置をとった。不当労働行為の意思はない」
「配車差別は不当労働行為」裁判所が認定
提訴から3年がたった今年3月、裁判所は配車差別が不当労働行為にあたると認定。
未払い賃金のほか、不当な配車で給与が下がったことに対する損害賠償など3人に合わせて2700万円あまりを支払うよう命じました。
裁判長
「配車差別は、組合員を経済的に圧迫することで組合内部の動揺や組合員の脱退等による組合の弱体化を図るものともいえる」
会社は判決を不服として控訴
東輪ケミカルは、判決を不服として控訴しました。
見解を尋ねたところ、親会社の「日輪」が「コメントは控える」と回答しています。
松尾さんたちの弁護士は、「労働者の権利主張に対して会社が露骨な労働組合潰しをやってくるのは、氷山の一角だと思う」とコメントしています。トラック運転手 梶原章裕さん
「会社は判決を真摯に受け止めて会社の待遇環境改善に取り組んでほしいという一心です」トラック運転手 松尾宏忠さん
「運送会社で働く人たちが働きやすい業界になっていけばいいなと思います」厚生労働省のまとめによると、今年3月の「自動車運転従事者」の有効求人倍率は2.66倍。
全職業平均の1.16倍を大きく上回っています。
私たちの暮らしと物流を支えるドライバー。
慢性的な人手不足を解決するためにも職場の労働環境の改善は不可欠です。RKB毎日放送 記者 浅上旺太郎
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